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□この話は「やぶ医者様」が、 2002年5月25日に投稿して下さった作品であります。 |
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■投稿作品第三十三話 屋根裏に誰かいるんですよ |
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南の方の村は、山が険しく、今でもよくがけ崩れなどで陸の孤島に近い状態になってしまうことがある。 そんな村に、私が勤めていた頃の話。 Aさんは、家の中で骨折して以来、寝たきりになっていた。 幸い家族に介護力があったため、自宅で療養していた。 私は、週2回、Aさん宅に往診に行っていた。 Aさんの家はこの村の名家だったそうで、自宅も古いながらもどっしりと広い立派な物だった。 骨折がだいぶ良くなり、季節も暖かくなったことから、Aさんはリハビリに通うことになった。 主な介護者だったAさんの息子さんの奥さんも、ほっとしたようだった。 ある日のこと。Aさん宅から往診の要請があった。 その日の往診担当は私だった。 「今日はAさんはリハビリの日だけれど?」 と聞くと、 「往診依頼はお嫁さん(Aさんの息子さんの奥さん)のほうです」 と事務官は説明した。 Aさんの息子さんの奥さんは、昔から腰痛を持病に持っていて、このところ介護もあって悪化したといっていた。 病院に来れない位痛み出したのかな?と思い、私はAさん宅に向かった。 Aさんちのお嫁さんは、やはり腰痛だったようで、痛み止めの注射でだいぶ楽になったようだった。 むしろ介護のストレスが溜まっていた様で、時間のあった私は、彼女の愚痴に付き合うことにした。 「お母さんもね、ようやくベッドを使うようになってくれて、少しは腰が楽になったけれど、何で自分の部屋を使ってくれないのかしら」 と彼女は言いました。 Aさんは初め、使い慣れたお布団で寝ていたのですが、布団ではいろいろ介護に不便だという事で、村の介護サービスを利用してベッドを借りたのだった。 しかし、骨折後退院してから、Aさんはなぜか居間で寝るようになっていた。 自分の部屋が別にあり、十分な広さがあったにもかかわらず。 居間とお手洗いは遠く、Aさん自身の部屋のほうがお手洗いなどにも近かったため、お嫁さんはそちらに移るように何度も進めたそうだ。 毎日お手洗いに行く介助をするほうにしてみれば、もっともなことである。 しかし、なぜかAさんは居間で過ごすことにこだわりつづけていた。 「全く、最近またボケが進んできたようだし、なんかこだわりがあるんでしょうね。こっちの身になって欲しいわ」 といって、お嫁さんは笑っていました。 Aさんは確かに、骨折をきっかけとして少しボケてきたようだった。 「昼間もね、こうずっと上を睨んでるの。テレビも見ずにね、天井を見張っているみたいにね、見てるのよ。何が楽しいんだか」 「何かあるんですか?」 お嫁さんは明るく笑って、 「天井になんか在るわけないと思いますよ。あるのは天井裏だけ」 そこまで話していて、彼女もAさんのこだわりが気になったのでしょう。 そう言えば、ここに嫁に来た時、天井裏には登るなといわれた事があると言った。 Aさんの家は立派な日本家屋で、天井裏もおそらくかなりの広さだろう。 実家では天井裏を物置に使っていたお嫁さんは、天井裏にものを置かないかと提案して、こっぴどくAさんに叱られたそうだ。 こうなると、気になりませんか? お嫁さんは、今家には娘しかいないから、登ってみよう、といった。 私は気が進まなかった。 なぜなら、天井を睨むAさんの様子から、あまり良い物があるのではなさそうだと感じたからだった。 でも、気になっていた。 仏間の押入れの天井は、くぎで止めていないから開く筈だという事で、私達はそちらに移動した。 お嫁さんは腰痛なので、登るのは私となった。 白衣を脱いで、押入れに上がると、天井は思ったよりもあっさりと持ち上がった。 ぱらぱらと埃が落ちてきて、むせたが、意外に天井裏は広かった。 頭に何かが障ったので探ってみると、昔使っていたような、裸電球がつるされていた。手探りでスイッチを付けると、それは長年使っていないはずなのに、白々と辺りを照らした。 「居間は、そこから右手の方ですよ」 お嫁さんの言葉に、私は何気なくそちらを向いた。 広々と静かな空間の向こうに、木の格子があった。 天井から床(天井裏の)まで、しっかりと作られた物だった。 つまり、私のいる所とその向こうは、格子によって完全に区切られていた。 天井裏を何故わざわざ区切ったのか? その向こうは、裸電球のささやかな明かりさえ届かず、真っ暗だった。 「なんかありましたか?」 お嫁さんの声に、 「何もない」 と答えようとして、私は視界の隅に何かが動いたのに気がついた。 しかし、そちらを見ても当然何もない。 突然、格子の方に埃が舞い上がった。 天井裏に、風など吹くはずもない。 現に、明かりで照らされた天井裏の床は、見事な程均一に埃が積もっていた。 気のせいかと思った時、不意に耳元で囁かれた。 「ダァレ?」 気が付くと、仏間の床に私は寝かされており、お嫁さんと娘さんが心配げに私を見ていた。 「先生、急に押入れから倒れてきたの」 意識が飛んでいたのはほんの数秒だったようだが、私が押入れから落ちた時の音に、娘さんが驚いて駆けつけてきたそうだった。 「先生、押入れに何かあったんですか?」 そう言って、娘さんは自分も登ろうとした。私は慌ててそれを止めた。 だってあの時、私の側には、誰もいなかったはずだったから…。 結局、Aさんのひた隠しにしていた物とは、毎日見張っていた物とは、なんだったのだろうか? |
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