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■第一七話 悪い冗談〜前編〜 |
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あの出来事から、果たしてどれ程の時間が経過したのだろうか。 七月の終わりの曇り空、異様に暑かったのはよく覚えている…。 私が20代最後の夏、義理の兄である私の嫁の兄が結婚する事になった。 当然その結婚式には、私も出席する事になる。 義理の兄はとても良い人物で、その方の結婚なのだから心から祝福したのは間違いない。 しかし正直な所、私は、その類の堅苦しい席は好きではない。 親戚関係の挨拶を交わすなんて事は、実に苦手な行為であり、挙式の一週間前付近から“憂鬱な気持ち”になった事を思い出す。 「その日がきて欲しくないな〜」 などと嫁に幾度となくこぼし、日に日に憂鬱さも増して行き、挙式の数日前などは 「その日なんで無くなれば良いのに!」 などと、義兄に対し実に“バチアタリ”な事を言っていた。 当然その言葉がバチアタリな事は、その時も認識していたのだが、如何せん挙式に近付くにつれ憂鬱さも加速して行き、その憂鬱さと共に 「その日が来なければ」 と言った思いが妙に強くなって行く。 そう、妙に「その日が来なければ」と思う様になっていたのである…。 義兄の挙式の前日。 挙式は早朝と言う事もあり、嫁が予めスーツの用意を颯爽と始め、その横で気の乗らない私が何をするでもなく、その姿を眺める。 そんな私を嫁は、さぞかしだらしの無い亭主と思ったであろう。 私に半ば呆れた御様子で言葉を放つ。 「靴下はどうすんの?」 私は 「黒いヤツ」 と答える。 「ベルトはどれ?」 私は 「黒いヤツ」 と答える。 「ネクタイは?」 私は 「黒いヤツ」 と答えようとしたのだが、嫁のお怒りの言葉が飛んでくるのは間違いないので、 「黒いのが好みなんだよね」 と冗談になる様な言葉を選んだつもりだったのだが、それでも怒られてしまった。 しかし「黒いネクタイ」に、妙に引っかかるモノを感じたのは気のせいか? いま考えても答えは導き出せないが、その嫁とのやり取りを終えた時、例の憂鬱さと「その日が無くなれば」と言った思いが一層強くなった事は私の中では事実である。 その後、私達の自宅に妹と妹の彼氏、そして私の実の母が訪れた。 時を同じくして、妹と彼氏が両家族公認の結婚を前提とした同棲生活が、義兄の結婚と偶然同じ日に始まる事となっていた。 「めでたい事は重なるんだねぇ」 と言ったか言わないかは正直覚えていないが、私の家で家族の会話が久しぶりに弾んだ。 その時、私の弟は都合により、その場にはいなかったのだが、私の自宅に向かう車中、偶然にも弟の車とも擦れ違ったと母が言っていたのを思い出す。 「偶然は重なるんだねぇ」 と言っていたかどうかも分からないが、にしても少々重なり過ぎでは? そんな疑問は多少なりとも抱いており、ますます例の憂鬱さが加速的に強くなって行く。 その原因は、結局「結婚式へ行く事」以外には思い付かない状態であり、結局「それだけが原因なんだ」と自分を言い聞かせるも、正直納得は出来ないまま、明日の早起きに備え珍しく床につく。 その時、夢を見たかは覚えていない。 例の憂鬱さは常に続いていたが、とりたてて記憶に残る夢は見ていない。 ただ思うに、夢を見る暇が無かったんだと思う。 早朝の、確か4時頃ではなかろうか。 一本の電話のベルが、私の睡眠の邪魔をした。 本日行なわれる挙式関係の電話だと思ったのだが、電話の主は意外な事に、昨日顔を見せた母親であった。 寝起きで不機嫌な私は、半ば苛立ちながら荒い言葉で対応するのだが、母の言葉を聞いた後、徐々にではあるが苛立ちから不安、焦りへと変わっていった。 そして思い出した様に、昨日から続いていた例の憂鬱が、いよいよ本性を見せ始めた。 「弟が交通事故を起こしたらしい…」 愕然とする私の心境とは裏腹に、早朝の日差しは清々しい物であった…。 後編へ続く |
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