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■第二十話 遠い記憶 |
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私が記憶する中で、恐らく一番古いであろう不思議な体験です。 私が幼稚園だか小学一年の頃だったか、釣りが趣味であった親父に連れられ、何所其処だかの海へ行った記憶がある。 恐らく三浦半島あたりだと思うのだが、定かではない。 私の親父と、釣り仲間の友人が、岩場で釣りを楽しむなか、私は岩の隅に見え隠れするカニやイソギンチャクに感激し、季節外れの冷たい海水に、びしょ濡れになりながら、すばしっこいカニを追い掛け回し、イソギンチャクに指を突っ込み 「うひゃ〜」 などと騒ぎながら、一日中“海の生物”と戯れていた…。 普段が海とは無縁な生活をおくる当時としては、とても新鮮で、そして楽しい思い出として、私の記憶の片隅に焼きついている。 そろそろ帰宅の時間となったのか、遠くで私を呼ぶ声がする。 親父のもとへ行くと、クーラーボックスには沢山の魚が入っており、それに感激し、再び 「きゃっきゃ」 と騒ぐ私。 様々な魚の姿に、ひたすら喜んでいた記憶のみを強烈に覚えているのだが、数年後に親父から聞いた話によれば、魚を見て飛び跳ねる私の体はビショビショで、冷たく冷え切っており唇は小刻みに震え紫色だったと言う。 体を触っても「ガタガタ」と震えており、 「こんな状態で、よく平気だなぁ…」 と思ったそうだ。 また翌日には案の定、高熱で寝込み、それから3日間程、うなされていたらしいのだが、当の本人である私の記憶には、綺麗サッパリと残っていない。 ただ… それからの家路に向かう途中の、海岸沿いの道での不思議な出来事は“楽しかった海での思い出”とは正反対の、幼かった当時としては強烈に“怖い思い出”として心に仕舞い込まれている。 海岸線を走る車中、私は後部座席の左側に座っており、ちょうど浜辺が見える位置に座っていた。 親父たちは、本日の釣りの話題で持ち切りであり私には付いて行けず、視線を浜辺におくり、岩場での出来事を思い出していた。 暗くなり始めた浜辺には、男女が寄り添うシルエットが度々見られ、幼少の抵抗力のない私にとっては、やたら刺激的な光景に「ドキドキ」したのを覚えている。 “愛の育み”に夢中な、その光景に目のやり場を無くし、視線を車中に戻す。 この途轍もなく純情な当時の自分には笑えてくる。 「目のやり場を無くす事も無かろうに…」 とは思うのだが、当時の私には耐えられない「男と女のワンシーン」だったのであろう。 なんせ6〜7歳の子供なのだから…。 しかし6〜7歳と言えど、一応は人間の男であり、興味がない訳ではない。 視線を外し、数分と経たないうちに、今度は“好奇心”が芽生え始める。 「もう一回みてみようかな…」 などと思いつつ、恐々と左手に広がる夕暮れの浜辺に目を遣ると… …いる… …くっついてる… …しかも“顔”と“顔”が重なっている… 先程のカップルは、相変わらずどころか、素第にエスカレートしている状況らしい。 “男女の寄り添う影”だけで耐えられなかった当時の私だから、当然エスカレートした“愛の行為”に耐えられるハズもなく、再びそそくさと視線を車中に戻す。 当時の顔色など覚えてもいないのだが、この時すでに“真っ赤”だったのであろう。 心臓が“バクバク”と鼓動を打っていたのは刻銘に覚えているが。 次に襲うのは“好奇心”。 腐っても“男”と言う事でしょうか。 再び目を浜辺に、どうやら絶好調な御様子だ。 再び照れる幼き私と、そして芽生える好奇心…。 こんな事を4〜5回ほど繰り返したのか、回数こそ“あやふや”だが、たびたび男女の「愛の時間」を覗いていた記憶があり、その最後に見た時に、ふとした疑問を抱く。 あれ?車は走っているのに、なんで同じカップルばかり見えるんだ? 季節外れの海岸線であり、渋滞している記憶はない。 そして、先程のカップルの遣り取りを、見ては照れ、見ては照れの、私の一連の行動は、少なくとも5分以上は経過しているハズだ。 時速40kmで走っていたとしても、5分経過した時には、最初の地点より3kmは進んでいる。 もちろん当時は6〜7歳であり、“5分で何キロ進むか”なんて事は考えず、ただただ不思議で、そして怖くもあり、その男女の「愛の戯れ」に対し、先程とは違う好奇心の眼差しで見ていた。 「あのカップルは何なんだろう…」 そればかりを考えていた。 車中からの景色は流れている…。 しかしカップルは依然くっついたまま離れず、そして窓越しの景色の中心にいる…。 「変だ…絶対に変だ…」 そう思った次の瞬間。 先程まで夢中になり、独自の世界を作り出していたカップルが、車中の私に視線を送り返してきた。 「ええっ…???」 と思い、次には視線を車中に戻し、窓から姿が見えないようシートに体を深く沈め 「何で何で何で何で何で…なんで…」 と、半パニック状態で考え込み、そしてそれからの記憶は全くない…。 翌日から3日間、先程も書きましたが、私は高熱で寝込んだ。 親父の話によれば、 「寒空の下でビショビショになりながらカニを追っかけてたから風邪ひいたんだよ」 との事なのだが、私は親父による、その“診断”には、いささか疑問を感じている。 もっとも、余りにも遠い昔の出来事なので、調べる事すら出来ないのだが、それに実際は、たまたま違うカップルが私が視線を送った時にタイミング良く、その場にいたのかもしれない。 そう考えると、少しは気も楽になってくるのだが… ただ忘れられないのが、 寄り添い楽しげなカップルが、 私を見たときには、 その今までの愛の行為とは余りにも掛け離れた、 悲しい顔をしていたこと…。 悲しい目をしていたこと…。 その表情が、未だ忘れられずにいる………。 |
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