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■第二十三話
ワガイノリトドイテホシクテ…
: その1


注:この作品は当サイトのメルマガ「路地裏通信」で公開したものです

■峠道の記憶…


私が育った町から程近い位置に、ちょっとした峠道がある。

峠道といっても、距離的には1km弱の短い道なのだが、小さな山をひと越えする、一応は峠道であり、私はそう認識している。

自宅の近所と言う事もあり、何かにつけて通る機会も多く、私にとっては馴染み深い峠道であり、多くの思い出の詰まった場所でもある。


幼稚園の頃の遠足で、その先にある某行楽施設に訪れたときも、間違いなくこの峠道を使っていたであろうし、小学校低学年の時にも、やはり遠足で訪れた記憶がある。
中学校一年の時などは、その峠道を友人と歩きながら、道の周囲に散らばる車の様々な破片を発見し、


「この峠道では交通事故が多いんだな」


と、あまりの生々しさに驚いたことが懐かしい。

またそんな痛々しい傷跡などを頻繁に見るものだから、この峠道が危険な場所≠ニ言う事も、いつの間にか認識していた。

職についた19歳の頃は、その職場の関係上その峠道を、“通勤道”として、ほぼ毎日活用していたりもした。
仕事が上手くいかず、上司にコンコンと説教を喰らい、帰路の車中で、ついつい“悔し涙”を流したのも、当時の彼女であり現在の嫁と、私の自宅に向かったのもこの道。
ついついスピードを上げ、峠道を走りぬけたのをよく覚えているし、その道で大事故を起こしたのも刻銘に覚えている。





そんな個人的に馴染みの深い、峠道なのだが、


“奇妙な物体を頻繁に目撃した”


と言う点でも、個人的に忘れられない場所となっている。


徒歩や自転車で、その道を行き来していた時には、特に何も見えなかったのだが、社会人となり通勤の為に車で頻繁に通るようになってから、具体的な年数で言えば、


昭和63年前後


であったと思うのだが、とにかくその頃より、その


“奇妙な物体”


は、ちょくちょく私の視界に入り込んできた。


時間帯で言えば、やはり暗い時刻に姿を現し、もっと具体的に言えば会社からの帰宅の際に、その奇妙な物体を目撃した。

峠道に入る急勾配の坂を上りきり、急カーブを過ぎると、大よそ100mほどの直線が伸びている。
きついカーブが続くこの道では、唯一といって良い気の抜ける地点と言え、その“気抜け”が仇となってか、何気にその直線は事故が多いらしく、路面には絶えず不気味なスリップ痕が残っていた。

その「直線なのに何故」といった心理から生まれるのか、その直線では何かと噂を聞いたことがある。


「あの道の中央に霊が現れて…」


といったものであり、何所そこでよく聞くパターンなのだが、私がその“奇妙な物体”を頻繁に目撃したのは、その直線の先に曲がる左カーブであり、一般的な噂話の聞かれる直線と、確かに近い位置ではあるのだが、微妙に違わなくもない。


とにかく、そのカーブに差し掛かった時点の私の視界の左側…そこは言わば“崖”といえる地形なのだが、その崖の手前に、白く、そして細長い霧状の物体 を、頻繁に…それこそ“通る度に”と言っても強ち間違いではないと思えるほどの高確率で目撃した。


余りにも頻繁に目撃するものだから、私としても正直なところ気持ちの良いものではなく、車の助手席に人を座らせて、その道を通った時には必ず


「この辺でいつも見えるんだけど…アンタ見える?」


などと友人や彼女などに尋ねた。

そこで尋ねられた連中が、一様に


「そんなの見えない」


と言ってくれたのなら、今まで見えていた物体は単なる“目の錯覚”と思い込めるのだが…この返答が“まちまち”であったのが、かえって嫌な気分にさせる。
当然「見えないよ」という人もいたのだが、中には


「見える見える!白いヤツでしょ」


というものから、極端な例では



「うわっ…血みどろの男がいるよ」



という何とも胃の痛くなるかのような発言に、運転している最中に全身の血が引く思いであったのを覚えている。





そんな何かと“嫌な峠道”なのだが、ちょっとした



洒落にならないエピソード



がある。

あるのだが…それは「その2」から書く事にしよう。



その2へ続く…

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