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■第二十三話
ワガイノリトドイテホシクテ…
: その3


注:この作品は当サイトのメルマガ「路地裏通信」で公開したものです

■平成十四年五月二十一日


当サイトと、「てふてふ」様、そして「異界への招待状」様との合同探索を行なった。
探索の内容は、主に神奈川の各心霊スポットを巡るといったものである。
様々なスポットへ訪れ、実際に現地を歩き、撮影をし…まあ月並みな合同探索といえばそうなのだが、途中の“お食事会”などはサイト運営での苦労話などに華が咲き、そういった部分でも合同探索はとても有意義なものである。

そんな様々な意味でも有意義な時間を過ごした合同探索だったのだが、探索を終え、帰宅するにあたり


「路地裏さんの自宅から近い例の峠道に行きましょう」


という事になった。





何だか自宅まで送っていただく事に、申し訳なさを覚えなくもなかったのだが、

「探索の“ついで”に私の自宅に送っていただいた」

と解釈すれば、多少は気の重さも晴れてくる。(気もする)
もっともこれは今回の探索でも運転を努めた「やっくん様」の気配りと解釈している。
毎回ながら合同探索の場を提供していただく「dai様」、そしていつも最後まで車を運転して下さる「やっくん様」を感謝して止まない。
本当にいつもありがとう!!





さて、その帰り際に向かった“峠道”なのだが、この路地裏でも既に3度ほど探索し、たとえ探索したとしても特にサイトで公開するものは無いと思っていた。
特に真新しい発見もなく、“遊歩道”に姿を変えた現地は、正直なところ当時の強烈な雰囲気を無くしてしまったと思っていた。

峠道に着き一応撮影の用意をして車から降りる。
実はこの峠道、「やっくん様」も思い出の地であったらしく、変わってしまった概観を眺めつつ、変貌ぶりと懐かしさが入り組み複雑な心境であったようだ。

変わってしまったのは峠道だけではない。
その周囲は、かつて様々な小動物が見え隠れする森であった。
それが時を経た現在では、新たな道が伸び、マンションがずらりと立ち並び住宅街も広がる。
10年前しか知らない者にとっては、途轍もなくショッキングな変貌だろう。
やっくん様も、その例外に漏れることなく驚きが隠せないようで


「なんだあのマンションは!」


などと驚きの声を上げていた。


そんな会話を2人で交わすなか、やや後方を歩いていた「てふてふ」dai様が、突然大きな声で我々を呼んだ。



「ちょっと…こっちに来て下さいよ!」



言われるがまま、dai様が指を差す場所へ向かう。
本来ならば、「興味津々で、その地点に向かった」と言いたいところなのだが、正直な気持ちを書くと、


既に何回も訪れた事のあるこの峠道で、いまさら新たな発見も正直ないであろうし…。


と言った心境であった。
ただ1つ気になる事と言えば、そのdai様が指差す地点と、私がかつて頻繁に“奇妙な物体”を目撃した場所が、とても近い事であった。
距離的に言えば、ほんの数メートルといったところでしょうか。

その場に着いた我々に、dai様が慌てた口調でこ言った。



「その…そこの電柱の足元を見て下さいよ」



我々は言われるがまま、その電柱の袂を確認する。
当然周囲は真っ暗なので、懐中電灯で、袂を照らす事となるのだが、その懐中電灯の灯りに、なにやら四角柱の形状をした物体が浮かび上がった。

高さは約40cm程の角ばった物体…。
大きさこそ小さいのだが、形としては“墓標”に似ている…。
いや、似ていると言うよりも、“そのまま墓標”と言っても良いその四角柱の正面には、文字らしき物も確認できる…。

その四角柱に刻まれた文章を読む…。
文字の全てを確認した訳ではなかったが、その文章の締めの言葉は



ここにて永遠に眠る



であった。
“そのまま墓標”と感じたのも無理はなかった。
本当に墓標だったのだから…。
いや、墓標というより供養碑と言った方が正しいであろうか…。

先ほどまでの和やかな雰囲気が一変する。
そしてこの峠道を訪れたなかで、最大の緊張感が我が身を襲った。
誰とも無く「ここから立ち去ろう」と言い始め、私は心の中で掌を合わせ、その場を立ち去り、そしてこの合同探索も終了となったのだが…。





■その翌日


前日の墓標の出現は、確かに我々を恐怖に陥れたが、それでも私のとった行動は、決して良いものではないであろう。


そんな事ばかりを考えての出勤となった。
しかしそんな心境では仕事に身が入らず、やり始めた仕事を投げ出し、車を走らせコンビニに向かった。買い物は缶コーヒーと“お線香”。
缶コーヒーはともかくとして、最近のコンビニの品揃えに線香がラインナップされているのは実にありがたい。

買い物を済ませた私が、次に向かった場所は、何所でもない昨晩の緊張の舞台となった、あの峠道である。
付近に車を止め、その“墓標”に向かい歩く。
昨晩見たとおりの姿でひっそりと、その墓標は電柱の袂にたたずんでいた。

缶コーヒーの蓋を開け、墓標の前に置き、線香を焚き、墓標の前に供えた。
墓石の前に膝を付き掌を合わせ、この地でお亡くなりになられた故人のご冥福を祈った。


合わせていた掌を下ろし、閉じていた目を開け、

改めて墓石に刻まれた文字を最後まで読んだ。



「ウソだろ…」



思わずそう呟かずにいられなかった。
この明るい時間帯で、もう驚く要因は無いであろうと思っていた。
しかし結果は、またしても血の気の引く思いであった。

書かれた文字の、全てをこの体験談で紹介する訳にはいかない。
だから必要最小限の“事実”を、ここに書きたいと思う。




ここにて永遠に眠る


昭和六十三年五月二十一日




分かっていただけるだろうか。
昨晩の合同探索の日程を、今一度思い出していただきたい。
そう…我々が訪れた日時は、この墓石の故人の、ちょうど命日であったのだ。


なぜ、この様な過程が生まれたのかなんて分かるはずもない。
単なる偶然が、この“命日”に私を巡り合せただけなのかもしれない。

それとも…それとも…


しかし現実は、目の前にリアル過ぎる程に、目の前に存在している。
そんな事を考えていたら、目の前の景色も墓石も、どんどん揺らいで見えてきた。
そしてもう一度、掌を合わさずにいられなかった…。


どうかご冥福を……。





私がかつて目撃した“奇妙な物体”と、この墓石の因果関係は、無能な私には知る由も無い。
ただ、知らされた現実を、改めて見つめてみると



昭和63年



と言う年代は私が頻繁に奇妙な物体を目撃していた年代と全く一致していた事は、この体験談を見ていただければ容易にお分かりいただけるであろう。



そして無能な私は、こんな体験談の最後に



ここで亡くなられた故人に対し



心からご冥福を祈ることしかできないから…



無能な私は、この体験談を公開する前に、



せめてもう一度、掌を合わせたいと思います。



願わくば…



ワガイノリトドイテホシクテ…



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