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■第二十七話 よく似た彼 注:この作品は当サイトのメルマガ「路地裏通信」で公開したものです |
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■その2:雨上がりの夕刻 学校も夏休みに突入した私は、 午前中は部活で汗を流し、午後は友人や彼女と遊び、そして夜はギターを弾いて寝る…。 そんな生活を繰り返していた。 当然“受験生”なのだから、勉学の方にも多少は勤しんでいた。 といっても英語塾に通っていたので、英語だけは“渋々”…といった状況であったのだが。 夏休みに入った為だかどうだかは分からないが、それを境に、 私と似ている人物に会った といった報告は、全くなくなった。 まあ私としても、決して気持ちの良いものでもなかったので、それはそれで良いかな…と、軽い気持ちで考え、そして夏休みの多忙な日々を過ごすうちに、私の脳裏から 私と似ている彼 の存在は消えて行った…。 とりあえずは…。 私が渋々と通っていた英語塾では、毎回のように単語テストが行なわれていたとは、「その1」にも書いた。 テストといっても、出題される単語は予め先生から指定され、生徒である私達は、その単語を“丸暗記”するだけの、今思えば実に良心的なテストであった。 事前に勉強さえしておけば、殆ど満点をとれる訳であり、実際に私は毎回100点満点であったのだが、全然自慢できる物でもない。 しかし世の中には“暗記”を苦手とする人も少なくない。 何を隠そう同じ塾に通う、隣に住む“T岡君”が丸暗記という作業が苦手な人種であり、毎回のように塾の先生に 「T岡君…もっと勉強しなきゃダメじゃないの!」 と怒られていた。 そんなシーンを毎回見ていると、勉強が決して得意ではない私でも流石に 「なんか手伝ってやるべきかな…」 なんて思うようになってくる。 というか、毎回見せられる先生の ヒステリックな声 が聞きたくないのが本音なのだが…。 そんな事情により、夏休みよりT岡君の自宅で英単語の勉強を行なうようになった。 T岡君の家と私の自宅は、ものの見事に隣り合わせとなっており、わざわざ玄関から入らなくとも、屋根伝いに彼の家に進入する事が出来た。 例えばT岡君に 「今日は俺んちで遊ぼうよ」 といえば、彼は屋根伝いに私の自室の窓を叩き 「遊びに来たよぉ〜」 「おぉ!来たかぁ!ファミコンやろう!!」 といった具合である。 そんな事を、“当たり前”にように行なっていたのだから、英単語の勉強の際にも、当たり前のように私が屋根伝いに彼の部屋へ行き、そして勉強が終わると私の自室に戻り、そして私宅を整え英語塾に通う…。 そんな日々を、“当たり前”のように過ごしていた。 あの日もそうであった。 当たり前のように彼の部屋に行き、単語を暗記して2人で模擬テストを行い、間違っていたら再び暗記してテスト…。 そんな事を繰り返している時、先ほどから雲行きの怪しかった空が突然 ピカッ と光り、そして数秒の間の後に ゴロゴロ… 夏特有のスコールの前触れである。 T岡君と 「あ〜もうすぐ降ってくるねぇ…」 なんて話していた矢先に、窓の向こうでは ドドドドォォォォ と、正に“バケツをひっくり返した”かのような豪雨が、夏に生い茂る木々に降り注いでいた。 隣に見える自宅の屋根から伸びる雨樋からは、その口径ではさばき切れないためか、大量の雨水が溢れ出している。 本当に強烈な豪雨であった…。 「こんな天気で塾に…行きたくないよな」 「それ以前に…この雨じゃ自分の部屋に戻れないよ」 「今日は塾は休みにしようぜ!」 なんて事を話しながら、相変わらず激しく降り注ぐ雨を眺める。 しかし夏の雨は悪戯なもので、そんな事を話した数分後には カラッ と晴れてしまうものである。 実際にその時も、先ほどの雨が嘘に思えるほどに天候は回復し、どう考えても「雨が凄くて塾には行けません」とは言えないほどに素晴らしい夕焼けが一面の空を彩っていた。 「しょうがないよな…塾に行こう」 「あ、もう遅刻気味だね」 「じゃ、オレは部屋に戻るから…後でね」 そういい彼の部屋を出た。 空こそ見事に晴れ上がっていたが、地面や木々、そして屋根などには先ほどまでの豪雨の爪痕が残っていた。 濡れた木々が夕焼けに輝いて綺麗であった… 自室に続く屋根も黄金色に輝いて… そして嫌な予感に包まれる。 「足を滑らせたらヤバいかな…」 そう思った次の瞬間! 黄金色の空が、私の視界に入り込んできた。 空高く広がる雲を眺めていた記憶がある。 その次の記憶は “衝撃” 右肩をはじめ、身体の右半分に、強い衝撃を受けたような気がした…。 どうやら屋根から落ちたらしい… 嫌な予感が当たってしまったようだ… 次に残る私の記憶は、私の親をはじめ、周辺に住む数人の大人が私を囲っていたこと。 その連中を、朦朧とした意識のなかで眺めていたこと…。 その数人の大人なかに、妙に見慣れたような… しかし、どう考えても不自然にしか思えない 妙な奴 がいることに気づいた。 気持ち長めの髪の毛の彼… 大して背の大きくない彼… どう考えても“たれ目”としか思えない瞳の持ち主の彼… 私が鏡の前に立つと、必ず現れる“彼”と良く似ていた。 自分自身が一番嫌いと思っていた顔を持つ彼が、途切れそうな意識の私の前に現れた。 ただただ“彼”を見続けていた。 “彼”も私を見続けていた。 そして“彼”が、右肩や右足、そして額から血を流しながら、地面に倒れている私に近づいてきた。 そして私の前で立ち止まり、屈み込んで私の顔を覗きこむ。 額の血を拭えないでいる私は、そのまま彼を見続けるしかなかった。 “彼”の眉間にはシワが寄っていた。 いかにも何かを言いたそうな表情であった…。 そして怪訝な顔をした“彼”は、私を見下ろしながら、たったひと言 …チッ!! そんな力のこもった舌打ちを残し、振り返りその場から離れていった。 その“彼”の後ろ姿を眺めているうちに、私の記憶も次第に力尽きて行った…。 意識が戻ったのは、それから数時間後のこと。 横にいた母親に、それまでの事情を聞き、自分が屋根から落ちたという事実を改めて思い出す。 そう言えば右半身が強烈に痛い。 屋根から落ちた記憶は戻ったのだが、それ以前、そしてそれ以後の記憶が、いまいち繋がらない。 布団のなかで、それに至るまでの記憶を辿る。 そうだ、英単語の勉強をしていた。 雨が降ってきたんだ。 雨が止んで自室に戻って…そして落ちたんだ…。 落ちた瞬間の夕焼けの空が綺麗だった… 身体に衝撃が走った。 近所の連中が集まっていたなぁ… …おっ? “彼”が私を見ていた。 “彼”が私を見下ろしていた。 “彼”が舌打ちをした後に去って行った! 母親に問う。 「俺に似た奴は居なかったか?」 友人に問う。 「俺を見下ろして舌打ちした奴は居なかったか?」 事あるごとに、親や友人に聞いていた。 「オレに似た奴がオレを見下ろして “…チッ!!” といって去っていったんだよ」 しかし返事は一様に 「そんな奴は居なかったよ」 であった。何度聞いても同じであった。 そのうち聞くことさえも馬鹿らしく思え、そして聞ュことを止めた…。 この事実が、果たして ドッペルケンガー(生霊) であったのか、私には答えを出せない。 しかし私がこうして生きている事を思うと、もし私の前に現れた“彼”がドッペルケンガーであったのならば、 ドッペルケンガー = 死 と言う考え方は、少々大袈裟なものなのかもしれない。 …でも待てよ? その数年後に、私の父親が亡くなった。 更に数年後には、私の実弟が交通事故で亡くなった… 広い意味で考えると、 ドッペルケンガー = 死 というのも強ち間違いでもないと… 思えてこないでもない…。 |
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