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■第三十二話
八王子の神社

 ある真夏の昼過ぎ、八王子のとある場所で昼食を取った後、車中にて昼寝をしていた。
基本的に、仕事中に昼寝はしないのだが、この日は何故かどうにもならない睡魔に見舞われ、欲に任せるがまま寝てしまう。

 そんななか、何とも形容しがたい圧迫感に突如襲われる。
それは金縛りといっても良い程の強烈なものであり、その苦しさは以前にも経験したようにも思えた。


「どんな時にこんな感覚に襲われたんだっけ?」


苦しさにもがきながらも、過去の記憶から必死に探し出そうとする。
すると、程なくして1つの答えを導き出した。


「子供のころに実家で怖い体験した時とに感じたのと同じだ」


過去に様々な恐怖体験をした時に感じた、あの旧実家で時折体験した、あの独特の金縛りと同じである。
普段の金縛りであれば、視界だけは比較的自由であったのだが、怖い体験をするときは、それすらも奪われていた。
そして、半ば無理やり目を開けた時に、結構嫌なものを目撃したりしていた。

 その時の感覚と全く同じなのである。
それに気付いた途端、圧迫感とともに強烈な恐怖心に支配された。
まるで子供のころのように、車中でひたすら怯えていた。

 旧実家での体験と全く違うのは、それが昼間であったことだろうか。
旧実家では、殆どといって良いほど、深夜にその金縛りに遭遇していた。

しかし今は昼間である。
外はその季節通りの快晴で、しかも唸るような暑さである。
暑さはこの際関係ないのだが、無理やり視界を確保したところで、眼下に映し出されるのは、真夏の太陽に照らされた街並みが当然のように見えるはずだ。


「怖いけれど視界を確保しよう」


そう決心して、目蓋を力尽くで開けてみる。
“あの時”と同じように、徐々に視界が開けてくる。

 次第に見えてきた景色は、予想通りの“現世の街並み”であった。
要するに、例えば実家で見た女性の巨大な顔の様なものは、残念ながら見えなかったのである。
もっとも、真昼間の明るい時間帯に霊体が見えるなんて、相当難しいと思う。
周囲の明るさに淡い存在の霊は、例え目の前にいたとしても、掻き消されてしまうのだろう。

 ただ、目に見えなかっただけであって、実は車中に霊が侵入していたのではないかと思えてならない。
その後の車中は、何とも言えない独特の嫌な雰囲気に包まれていた様に記憶している。
そして、何か「コソコソ」と言葉を発しているかのような妙な“音”…。
これはきっと、気のせいなんだろう…

いや分からない…

一体何なんだろう…。

 その嫌な雰囲気や音の恐怖に溜りかねて、慌ててその場を立ち去った。
勿論、交通事故には最善の注意を払い、そのお蔭でよく有り勝ちな恐怖体験後に事故なんて事はなかった。

 あの出来事は、一体何だったのだろうか?
確かめる手法なんて今さら皆無なのだが、あの何とも形容し難い気持ち悪い空気は、幼き頃の経験も相まって、今になっても忘れる事が出来ないでいる…。

 因みにその場所は、八王子にある神社の付近にある駐車場だ。
その神社が、心霊スポットとして噂されている訳ではないのだが、個人的にはあまり近付きたくない場所となっている。

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