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■第二十四話
聞こえてくる音 : その6

注:この作品は当サイトのメルマガ「路地裏通信」で公開したものです

■3つ目の不自然


車に戻り、さっそく乗り込むと、夏特有とも言える強烈な熱気が車中に漂っていた。

エンジンを掛け、クーラーを全開にして、とりあえず一呼吸したのちに胸元の煙草を徐に取り出し一服する。

立ち昇る煙草の煙を、見るでもなしにぼんやりと眺めながら、今回の探索の事を思い出す。
いや、正確には、今回の探索の“あの音”の事を考えていた。



「あの音の正体は何だったのだろう」


「いったい何所から聞こえてきたのだろう」



いくら考えても答えなど出る筈もなく、またこのまま此処で考えたところで、ただ時間が悪戯に過ぎていくだけである。


「どうせ考えても何も始まらない事だし…」


と思い、手に持っていたデジカメを助手席に無造作に置き、その場から立ち去ろうとハンドルに手を掛けた。
そしてそのまま何も考えずに車を走らせれば良かったのだが、


何故か


足元に違和感のようなものを覚えた気がして、不意にその違和感のある左足に視線を送った。
すると、左足の太股の中間あたりに


黒い糸状


のようなモノが何本か寄せ集められたかのようなモノが確認できた。



「これは何なんだろう」



という疑問を当然抱き、それを手に取ってみる。
すると、その黒い物体が何であるか、その独得の手触りですぐに分かった。



「…髪の毛だ…」



数本の髪の毛が、殆ど“よじれた”状態で、私の太股の上に乗っかっていたのである。

思い当たるフシは当然ない。
探索の途中で、髪の長い女性と擦れ違った事実もなければ、それ相当の髪の長さの女性が、車の運転席に座った事もない。
私自身が長髪であった時期も、確かにあるのだが、それもそこそこ昔の事であり、長髪であった時期の頭髪が夏の時期まで残っていたとして、それがわざわざ左太股の上に、ご丁寧に置かれるのは、少々考えづらい。



やはり探索の途中で太股に纏わり付いてきたのか…



そんな事を考えると、先ほど聞こえた“あの音”や、ベンチに座っていた女性達の“意味深な笑み”も手伝ってか異様な恐怖感に襲われ、一応その髪の毛の束をデジカメに撮影した後に、窓からそれを投げ捨て慌ててその場を立ち去った…。

先ほどまで額から流れていた汗は、すっかり冷たい物に変わっていたのだが、それを拭う余裕は、しばらく訪れなかった…。





時を経て、季節も変わった現在となっても、この



“聞こえてくる音”


“意味深な笑み”


そして



“纏わり付いた髪の毛”



が一体何であったか分かる術はない。
この3点の因果関係も知ることは出来ない。




“髪の毛の正体”が、“聞こえてくる音”を私の耳に届かせていたのか…


そして“髪の毛の正体”が私の後方に存在したから


ベンチに座っていた女性達が“意味深な笑み”を浮かべたのか…




想像すれば限がないのだが、それも今となっては知る由もない。
そしてこの3点のうち、“聞こえてくる音”と“意味深な笑み”は、現在では調べる事すら出来ないのだが、



“纏わり付いた髪の毛”



だけは、デジカメで撮影していた為、写真でのみ確認する事が出来る。
最後にこの写真を紹介することで、この体験談を終了しようと思う。




「纏わり付く髪の毛」の写真はコチラ


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