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■第二十四話 聞こえてくる音 : その５ 注：この作品は当サイトのメルマガ「路地裏通信」で公開したものです
■逃げるかのように… 止まる事なく鳴り続ける“あの音”。 辺りをいくら探しても、発信源と思えるものは全くなく、当てのない視界を周囲に向けていた。 根本的に昼間の探索は、視界が確保される事が大き要因となり、特に恐怖を感じたりはしないし、今回の探索も、とりたてて緊迫した物では決してなかった。 しかし引っ切り無しに私の耳に入ってくる“あの音”を聞き続けているうち、さすがに平常心を保つのは難しかったらしく、その場を半ば逃げるかのように立ち去った。 次第に小さくなる“あの音”を聞きつつ 「あの音は何だったんだろう」 「一体どこから聞こえていたのだろう」 そんな事ばかりを考えながら、起伏の富んだ山中を半ば小走りで進んでいた。 途中で木の根や地面から剥き出しになった石に何度も躓きながら、額や背中から大量の汗を流しながら、それでも進むペースを変えることなく、ただひたすら「散■ヶ池」の出口を目指した。 ある程度進み、“あの音”が既に私の聴覚から完全に消えている事に気づいたのは、もう出口も程近い、池の姿も比較的近く見える場所であった。 歩くスピードを遅め、平常心を再び取り戻そうと言わんばかりに大きく息を吸い、そしてゆっくりと吐く。 それを幾度か繰り返していくうちに、昂った心も徐々に平常に向かっていった。 吹き出た汗を、手持ちのタオルで拭いながら、つい先ほどまで聞こえていた“あの音”の事を冷静に考えてみる。 もっとも考えたところで、その答えなんてものは分かる筈もないのだが、それでも一つの“事実”らしき物が分かった。 逃げるかのように“あの音”のする場所から立ち去ったのだが、その場から離れるにつれ、音が徐々に小さくなっていった事。 これは音が“その場”で鳴っていたと言えるだろう。 仮に私の錯覚で、音が聞こえたように感じていたのなら、たとえその場から離れたところで、私の聴覚から消える事はなかったと思う。 そう考えていくと人間は不思議なもので、先ほどまで恐怖心に支配され、慌てて逃げていたにも関わらず、 「“あの音”は何所かしらで実際に鳴っていた物だったんだ」 などと都合の良い解釈をしたりする。 どう考えても音の発信源なんて見当たらない山中であったにも関わらず…。 いよいよ「散■ヶ池」の外周をひと回りするコースも終わりが見えてきた。 スタート地点となった池の周辺には、幾つかのベンチが設けられており、そこには数名のお年を召した女性が、座りながら池を眺めつつ世間話でも話しているのであろう、とても楽しそうに語らいあっていた。 楽しげな女性達の会話を邪魔しないように、その場を素早く素通りすぎ…るつもりであったのだが、 その女性達は、私の顔を見るなり ニヤニヤ と、何とも意味深長な笑みを浮かべているではないか…。 「顔に何か付いてるのかなぁ」 といった何とも月並みな事を考えつつも、そのまま素通りしてしまうのも何なので、私も一応の笑顔で軽い会釈をすると彼女達も、その意味深な顔のまま会釈を返してきた。 “意味深な笑み”の根源が何であるのか、当然聞いてみたい気もしたのだが、蓋を開けてみれば何とも慌しかった今回の「散■ヶ池探索」に疲れてしまったのか、 早く車に帰りたい という心境が大きく働き、その場をそそくさと足早に立ち去り、この散■ヶ池のある森林公園の側道に停めてある私の車を目指した。 車を目指しつつ、先ほどの“意味深な笑み”を浮かべていた女性達の事を思い浮かべてみる。 もちろんその笑みは、私に向けられていたのは間違いないのだが、私を見つつ時折、 時折私の後方に目を送っていた のが、非常に気になる行動であった。 私の後ろに何があったのか… もちろんその時に後方を確認したのだが、特別なモノなんて何も存在しなかったのだが… その６へつづく…
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