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■第二十六話
過ぎ行く発光体

注:この作品は当サイトのメルマガ「路地裏通信」で公開したものです

■その2:バックミラーから…

ダムの上に設けられた橋を渡りきり、対岸の撮影を開始する。
しかしながら駐車場の恋人達の視線が、どうしても気になる。


「こんな時間帯に、1人で撮影する私を見た彼らは、いったいどう思うのだろう」


そんなことを考え始めると、どうしても撮影に身が入らなくなってくるし、場合によっては恋路の邪魔にも成りかねない。
そんな事を考えた末、主立った場所を撮影して、その場を颯爽と立ち去る事にした。

帰り道のダムの上。
多少の灯火こそあるものの、行きと変わらぬ暗闇と、その効果から生み出された“孤独”が真っ直ぐと伸びた道に待ち構えている様であった。
右手に見える“相模湖大橋”には、時折過ぎ行く車のヘッドライトが、不気味な発光体のように見えてくるのも、この孤独感によりそう思わせるものなのであろう。
そう分かっているのだが…


なぜか妙に気になる…


根拠なんてもちろん無いのだが、時どき走り去る車の灯りに頻繁に視線を奪われるようになった。


「単なる車のヘッドライトだし…怖がる必要なんトないじゃん…」


といった具合の独り言をブツブツと言いながら、空っ風が吹くダムの上を、時どき撮影しながら小走りに進む。
そんな状況で進んでいれば、大した距離でないダムの橋なのだから、あっと言う間に私の車まで到着してしまう。

車に辿り着き、慌てるようにドアを開けて運転席に飛び乗り、即座にエンジンを掛け、ヒーターを全開にして暖を取る。


「うぅ〜っ!!寒いっ!!」


といった具合で、凍てついた外気の不満を言いつつも、無事に車に戻れた事で、安堵感にすっかり浸っていた。
そして、寒さにより失いかけていた手の感覚が戻り始めたころに、先ほどデジカメで撮影した画像を、小さなモニターで一通り確認してみる。


注:この頃の探索時には、撮影が終わった後に、必ず画像を一通りチェックしていました。
しかし“王禅寺付近の霊園”で、デジカメの小さなモニターでも分かるほどの強烈な画像を見てしまった結果、とてつもない恐怖感に襲われてから、その場でのチェックを行なわないようになりました。(苦笑)


しかし取り立てて強烈な写真は撮影されていなかった。
“一安心”といったところなのだが、心の奥底には

残念!!

といった気持ちは、正直にいうとあった。
コンテンツの薄い当時の路地裏としては、心霊写真として扱える画像も欲しかったのは、邪な考えなのは重々承知なのだが大いにあった。

そんな事を考えながら、何気なくバックミラーに視線を送ると、相模湖大橋が丁度良い具合に写りこんでいる。
そして一つの灯りがミラー越しに確認できた。


バイクのヘッドライトなんだろうな…


と思いつつ、その灯りの動きを目で追っていた。
その灯りは、橋を渡った後に、こちら側に向かってきた。
大抵の車は橋を渡ると、そのまま国道412号線を進むので思わず


こっちに来るなんて珍しいなぁ…


と思いながら、その灯りの動きに注目した。
スピードとしては、非常にスローである。
相模湖大橋から私の車の停車位置は、どう転んでも大した距離ではない。
しかしそのヘッドライトと思われる灯りは、右へ左へと蛇行しながら、非常にゆっくりとしたスピードで、こちら側に向かってくる。


妙な動きだな…

ひょっとして…飲酒運転???


なんて事を、余計なお世話ながら考えつつ、その光の行方をバックミラー越しに眺めていた。

すると、先ほどまで蛇行していた光が、その動きをピタリと止めた。
動きが止まった場所が、私の車の真後ろに位置していたのか、その光がバックミラーの中央に映っている。


「あれ…どうしたんだろう?」


そんな独り言を、思わず車中でつぶやく。
そして何の根拠もないのだが、何とも言いしえぬ妙な予感が私の脳裏を襲った次の瞬間!


その光が私の車を目がけ、真っ直ぐと進んできた!!


状況は全く理解できない。
ヘッドライトと思わしき光球が、私の車に向かってくる事は分かのだが、かと言ってその理由は全く分からない。
しかしその光球は、そんな私の心境とは御構い無しに突き進み、とうとう車の後方5メートルほどまで近づいてきた。
しかも近づいてくる速度は全く落ちていない。


「おいおい!このままじゃ追突されちゃうよ!」


しかしスピードを緩める気配は無い。



「マズイ!ぶつかる!!」



真後ろまで来ていた光球に、思わず恐怖を抱き、そして身体を本能のまま硬直させたその時…


そのヘッドライトと思っていた光“だけ”が

車を貫通し、車内を悠々と通過し

そしてフロントガラスを付き抜け

そのまま何もなかったかのように

光“だけ”が前方へと進み

そしてロウソクの炎が消え入るかのように

私の視界から



すぅ〜〜〜〜っ



と消えていった…。



当初バイクだか何かのヘッドライトだと思っていた光の玉は、実体なんて何もない単なる“光球”でしかなかった。
そしてそれが「じゃあ何だったの?」と聞かれれば正直なところ答える事なんて出来ない。
言うならば、見たそのまま

「光球」

としか返答できないし、そしてそれが霊現象なのかどうかも分からないでいる。
その後に向かった「津久井湖」の道中でも、特に怖い体験をしたわけでもなく、良くありがちな“尾ひれ”が付くような気の利いた体験もしていない。
強いてあげるならば、車から突然“異音”が聞こえ始めたことが、その光球を見てからの変化といえば変化かもしれない…。


今になって思えば、単に光球が車内を通過し、そして消えていっただけの話であり、格別な冷たさを与えられるような体験談ではないと思う。
しかし、「車を貫通する光球」というものを考えると、やはりどう考えても普通とは決して言えず、3年ほど経過した現在でも不思議さを感じるし、何より光球が車内を通過した時に、ほのかに


バイクがエンジンを吹かすかのような音


が聞こえていたことに、今更ながら恐怖心が芽生えてくる…。


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