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■第二十五話
真夏の夜のトンネル
〜10年前の出来事を改めて振り返って〜

注:この作品は当サイトのメルマガ「路地裏通信」で公開したものです

■その5【トンネルを目前にして…】



予定の変更もなく、ファミレスで決めたとおりの

鎌倉のトンネル

に到着した。

ファミレスから鎌倉までの道中に行なわれた会話などは、10年以上の月日が経過した現在では正直記憶に残っていない。
どの道を通ってきたのかも、全く覚えていない。
もっとも、道もよく知らなかった若き頃であったので、おそらく“まとも”なルートを他愛の無い会話で盛り上がりつつ現地入りしたのだろうとは、大体の予想はつくのだが…。

車を停め、目的地のトンネルを目の前にしながら、車で進入するか、それとも歩いて進入するかで、少々もめた。


「ここまで来たのだから、現地の空気を直に触れよう」


「いや…怖いッスよ…まずは車で入りましょうよ」


といった程度のもめごとであったのだが、因みにこの土壇場で弱気になっていたのは、ファミレスではノリノリであったバイト諸君達である。


(先ほどまでの元気は何所へ行ったのやら…)


などと思いつつも、年下の我侭を聞いてあげるのも、職場の先輩として当然のことだと言い聞かし、とりあえずは車で各トンネルを通過してみることにした。

この鎌倉のトンネルは、合計すると6つ存在し、各トンネルに名前がつけられている。
名前を挙げると


名越トンネル・逗子トンネル・小坪トンネル

新名越トンネル・新逗子トンネル・新小坪トンネル


となる。
また、すぐ横を走る横須賀線にもトンネルが造られている。
往路復路とあわせて2つ存在し、その数も含めると合計8つものトンネルが、この付近に存在する。

トンネルの東側にいた私達が、車で進入するとなると道路交通法の関係上、どうしても「新小坪トンネル」から入ることとなる。
さっそく車で進入してみたのだが、さすがに“新”が付くだけあってか、どちらかと言えば新しいトンネルであり不気味さは皆無であった。

続く“新”の付くトンネルも、特に感じるものもなく有名なこのトンネルも「恐るに足らず」というのが、最初の3つのトンネルを通過した時点での個人的な印象であった。
この辺の印象は、バイト諸君も同じであったらしく


「なんだかぜんぜん怖くないなぁ」


などと彼らも口々に語っていた。

因みに紅一点の“T橋”は、このトンネルに付いて以来、終始無口であった。
車でトンネルを通過している時も、周囲を無言のまま見回しており、その様がこれまた不気味に思えてくる。


彼女が視線をおくる先に、果たして何があるのか…


そんな事を考えると、大したことないと思っていたトンネルも、妙に不気味に思えてくる。

“新名越トンネル”を通過したところで、車をUターンさせ、残る3つのトンネルへと早速進入してみた。


名越トンネル〜逗子トンネル〜小坪トンネル


と続くのだが、名越〜逗子トンネルを通過した時点での印象は“新”の付くトンネルと大差なかった。
やはり「普通のトンネル」という印象でしかなく、強いて挙げるならば、前半のトンネルより古さが若干目に付き、その分だけ“新”よりは不気味に見えなくもないかな…といった程度であった。

バイト諸君も口々に


「ナンだよ普通のトンネルじゃん」


などと言い始め、到着した時の緊張感も、すっかり失せてしまったご様子だ。
この変わり様はなかなか滑稽で、無口であった“T橋”さんも、さすがに「ふふっ」と笑っていた。
そして私は、このT橋さんの笑い声を聞き、ホンの少しだけの安心感を得ることができた気がした。

そして最後に残ったのが「小坪トンネル」であるのだが、進入した途端に今までのトンネルとは全くの別物のような気がした。
まず“見た目の古さの度合い”が全く違う気がする。
あからさまに

「このトンネルが一番最初に造られました」

と言わんばかりの風貌であり、トンネルの外壁からは絞り水が不気味に滴り、歴史あるトンネル特有の“ジメジメ感”が、不気味なまでに出ている。
そして…これは単なる私の“気のせい”なのだろうが、このトンネルに入った途端に


車内の空気が変わってしまった


気がした。そして思わず


「うわ…ナンだよこのトンネル…」


と、口走ってしまったのだが、それとほぼ同時期に、助手席に座っていた“T橋”さんがトンネルの一点を見つめ


「あっ…」


と、何とも不安そうな声を上げた。


「え?なになに???」


思わず問い詰めても、彼女は再び無口なまま…。


(これは絶対に“何か”が見えたんだな…)


そう考え、それ以上彼女を問い詰める事を止めておいた。
この時点でその“答え”を聞いてしまうと、恐らく車中はパニックになってしまうであろう。
現に先ほどまで半ばブーイングであったバイト諸君も、私と“T橋”さんとの遣り取りを後部座席で見てからというもの、すっかり無口になり、かなりの緊張状態となっていたのだから…。


全てのトンネルを車で通過した私達は、適当なところに車を停め、とりあえず降りてみた。


バイト諸君は、すっかり脅えているご様子だ。


“T橋”さんは、あの調子で意味深長な笑みを浮かべていた。


そして私は、


「歩いて進入しよう…」


と、無口なメンバーに告げたのだった…



その6へつづく…

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