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■第二十五話
真夏の夜のトンネル
〜10年前の出来事を改めて振り返って〜

注:この作品は当サイトのメルマガ「路地裏通信」で公開したものです

■その6【肌で感じるトンネル群】



「歩いて進入しよう…」



私が発したその言葉に、バイト諸君は戸惑いを見せる。



「え…ホントに歩いていくんですか?」

「止めましょうよ!何だか怖いッスよ!」

「最後のトンネルなんて異様に不気味じゃないッスか!」

「ヤバいッスよ!ヤバいッスよ!」



といった具合で、各々に騒ぎ始めたバイト諸君であったが、



「ここまで来ておいて車で素通りってのもナンじゃない?」



という私の言葉に「それもそうだな…」と妙に納得してしまう。
この辺の“純情さ”というか“単純さ”は「さすが10代」といったところだろうか。



「とりあえず行ってみましょう!」

「人数も多いコトだし何とかなるでしょう!」



何とか同行したメンバーの了解もいただき、さっそくトンネル内部に徒歩で進入することとなった。

先ほど車で通ったとおり、まずは“新”の付くトンネルに入る。
私が先頭となり、他のメンバーがそれに続く格好で進んでいたのだが、その様がまるで小学校の“集団登校”のようで、可笑しくてしょうがなかったのをよく覚えている。

後ろを歩くバイト諸君といえば、“新”の付くトンネルは特に恐怖を感じないのか、何やらゴチャゴチャと他愛のない会話を始めていた。


先ほどのビビリ加減は何所へ行ったのやら…


などと思いながら、前半の3つのトンネルを徒歩で通過した。
特に怖さを感じた訳でもなく、それはバイト諸君も、終始無口であったT橋さんも同じであったと思う。

前半の3つのトンネルを難なくクリアし、“いよいよ”とも言うべく旧トンネル群を目の前にする私たち。



「さて、いよいよ後半だねぇ」



と何気なく言いながら、バイト諸君の顔をみると、陽気であった先ほどより、にわかに緊張感が増したご様子だ。



「ではさっそく行きましょう」



と皆に告げ、早々とトンネルに向かって歩き始める私。



「待って下さいよぉ…」



といった何とも情けない声を上げるバイト諸君だが、



「来た道を戻らなければ俺の車に帰れないじゃん」



という私の言葉に“それもそうだ”といった具合で納得したのか、素直に私の後に続いてきた。

後半1つ目のトンネル、そして2つ目のトンネルを通過するが、前半同様に、個人的には特に怖さは感じなかったし変化もなかった。
強いてあげれば、バイト諸君の言葉数が異様に減った事が、変化といえば変化であろうか。

そして問題の最後のトンネル「小坪トンネル」を目の前にする。
車で通過したときに、言い様のない奇妙さを感じただけに、さすがに躊躇いを感じなくもない。

気が付けばバイト諸君は、この暑い夏の夜であるにもかかわらず仲良く肩を寄せ合っていた。
その横で、相変わらず涼しい顔をしていたT橋さんに



「さて、入りましょうかねぇ」



と告げる私。



「…行こうよ…」



珍しく前向きなコメントを発し、軽く笑みを浮かべ私の後を追う彼女。
それに続く肩を寄せ合うバイト諸君の“かたまり”…。

小坪トンネルの内部は、強烈なまでの湿気を帯びていた。
夏場であるから、特有の湿気はしょうがないにしても、それにしても不気味なまでのジメジメ感である。
トンネルの壁面の随所に見られる“シミ”も、恐怖感を煽るには、出来すぎる程の演出である。


何かが起きそうだ


根拠は全くないのだが、そんな気がしてしょうがなかった。
神経を張りつめらせ、トンネルを一歩一歩進んでいく。


しかし結論から言えば、この小坪トンネルでも何も起きなかった。
バイト諸君は、大きなため息と共に、ようやく恐怖感、不安感から開放された喜びを満喫するかのように
突然大声で話し始めた。



「よかったな〜何もなくて!!」

「すげー怖かったッスよ〜…」



この変わり様は、なかなか滑稽ではあるのだが、“何もなくてよかった”といった想いは私も同じであった。
この想いは、恐らくT橋さんも同じであっただろう。



「ちょっとヤバかったね」



とコメントする顔に、安心感が見えたのは、私の気のせいではないと思う…恐らく…。


停めてあった私の車に、とりあえず向かう我々。



「次は何所へ行こうか」



などと会話するバイト諸君。
終始寡黙であったT橋さんも


「なんだかオナカが空いたね」


といった具合で、開放感に満ちていた。
もちろん私も、“これで終わった”と言わんばかりに安心し切っていた。




そんな“心の隙間”を、霊は知っているのか…

小坪トンネルの出口から、私の車に向かうホンの少しの間に

この深夜という時間帯としては、あまりにも不吊り合いな







が、私の耳の中に入り込んできた…



その7へつづく…

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