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■第三十五話
神社巡りの末の赤い橋



「神流湖周囲の神社を巡り琴平橋に行くと霊に遭えるらしいです!」


 そんな投稿を頂いたのは、果たしていつの頃だっただろうか。
神流湖の取材を終え、サイトに公開した後になって知った情報であるのは間違いないので、それ以降であるのだけは確実だ。その情報を知った時に、

「神社をもっと調べておくべきだった!」

と後悔し、事前にリサーチの必要性を痛感したのを覚えている。
覚えてはいるのだが、いつの日かそんな後悔も忘れ、日常の仕事の忙しさも相まって、神社の重要性すら忘れてしまっていた。
 そんな時、改めて神流湖を調べる機会が訪れ、この情報を思い出したのであった。

「だったらもう一度神流湖に行ってみよう」

そう思い立ったのだが、やはり普段の仕事の都合がつかず行くことが出来ない。いや実際には時間は作れたのだが、神流湖よりも未到達の地に魅力を感じてしまい、つい後回しにしてしまていた。
 しかし、ついに先日に「神流湖神社巡り」を実行することが出来たのである。

 神流湖の周囲には、例えばGoogleマップで調べただけでも、6〜7ヵ所の神社が確認出来る。これは誰でも簡単に出来るので、実際に調べてみると良いかもしれない。
 殆どの神社は地図上で探せると思うのだが、中には地図に記されていない神社も存在している。典型的なのが、埼玉県側にある神社であろうか。先のGoogleマップで探しても神社名は記入されていないし、地図上には御社の形のみが、よく見れば載せられているだけである。

 名称もなく地図にも載っていないので、私は勝手に「廃神社」と呼んでいた。ネットで調べても「管理されていないのでは?」的なニュアンスで語られているのが殆どだし、何より風貌が“廃”的だ。
 しかし、訪れてみて分かったのだが、実際には「稲蒼神社」という立派な名称があり、また注連縄や紙垂も新しくされているので、少なくとも全く管理されていない神社ではないのは間違いない。
 先入観でものを見てはいけないと、自分を戒めるとしよう…。

 前述した稲蒼神社を始め、計7ヵ所の神社を巡ったのだが、それぞれに特徴があるというか何というか。
 基本的には全て管理はされているのだと思うのだが、例えば稲蒼神社の様に寂れた雰囲気であったりコジンマリしていたり、はたまた「普通の家?」と思えてしまうのもあったりと。
 当然しっかりとした鳥居のある神社も存在していた。心霊スポット単体として噂の聞く「抜鉾神社」などは、やはりそれなりに“そっち系”の雰囲気を醸し出していそうな感じだし、また琴平橋の眺めが良い神社もあった。

 そんな神社巡りをしているうち、気が付けば私の体調がイマイチになってきた事に気づいた。体調がイマイチというよりは、何というのか…不安感に支配されるとでもいうのか…。簡単に表現すれば「意味もなくソワソワする」みたいな感じだろうか。
 稀にこんな心境に陥る事があるのだが、私が幼稚園にも行っていない頃に、これに見舞われて、意味も解らず泣いていたのを記憶している。第32話で味わった感覚も、これと同じだ。
 もちろん今になって泣く事はないのだが、訳も分からず泣く事でしか表現出来なかった幼き自分の気持ちは良く分かる。

 とにかく、そんな感覚に見舞われるとロクな事がない。実際に霊体験ぽい事が起きたりもするのだが、この時の取材は昼間だし、そこまで真剣に考えてもいなかった。安易に構えていたと言えばそうなってしまうのだが「怖い体験をすればサイト管理者としてネタが出来る」といった邪な考えも多少なりともあるとは、この際だから正直に書いておこう。
 しかし実際は「こんな明るい時間に何が起きても」と言った具合で余裕の構えでいたのが本当の所だ。視界は完全に確保されているし、それに何度も訪れた経験のある場所という事も余裕の出来る大きな要因だろう。
 そんな不安感を抱えつつも余裕があるといった、何とも微妙な心境で、神社巡りの後に琴平橋の前に立ったのであった。

 ここ近年の取材は、まず最初に動画撮影から始める傾向にある。と言うのも、動画撮影は“資料として”といった意味合いがあり、その資料を手に入れる傍ら、動画撮影しつつ写真撮影ポイントを考たりする為だからだ。
 周知の通り、私の動画は全然作り込んでいない、正に“撮りっぱなし”状態のものである。それは作り込む技術がないのに他ならないし、粋なナレーションを入れられる様な素晴らしい声を持っている訳でもない。最近になり、児童読み上げソフトを使って何か…と模索しているのだが、そんな話はここでは全然関係ない事だ。要するに、まずは動画を撮影しながら現場をチェックすると言う訳である。

 早速デジカメを用意し、動画モードにて橋を渡り始める。橋の中央の空気が一変するのは、以前の現地取材で感じていた。それはそれで非常に怖く、私がこの神流湖でコメントを求められた際には必ずその事を伝えている。それは路地裏のレポートでも当然記載している。

「今日もあの空気なのかな〜…」

なんて考えてしまい、不安度が若干増したのは間違いないだろう。しかしながら、季節は梅雨に入った6月半ばであり、さすがに寒さは無いだろうとも思っていた。

 不安感が少しずつ増しながら、橋の中央に差し掛かろうとした頃だろうか、案の定と言うか何と言うか、空気が一変したのを感じ取った。季節がら、決して寒くはないのだが、それでも表現するなら“冷たい空気”としか例えられない様な雰囲気。
 表現力が乏しいので上手く言い表せないのが悔しいのだが、似た様なモノを感じた事のある人ならば分かってくれると思う。

(今日もまたあの雰囲気か〜…)

そんな事を思いつつ、また橋の途中までしか到達していない事に焦りつつ、それでも動画撮影を続けていた。

 もとから抱えいた不安感と、現地の“あの”空気の為に、不安感は増すばかりの私に、更なる体調変化が起き始めた。

突如として咽喉が痛み始めたのだ。

まぁこんな事は日常によくある事だ。動画撮影中なので咳を我慢し我慢し、撮影が終わるまで、ひたすら我慢し続けようと思ったのだが…さすがに出来なかった。

「ゴホン!」

溜らず咳払いをしてしまい、その音声は見事なまでに動画に入ってしまった。その部分はカットして公開するしかなかろう。

 咳払いをして喉の痛みは払う事が出来た。しかし不安感は払えるどころか増す一方でしかない。

(何だか嫌な予感がするな〜…)

そんな事ばかりが頭の中を過ぎる。根拠なんて当然ないのだが、不安感はより強烈なものとなり、いよいよをもって耐え難いものになるかならないか。そんな私に、ダメ押しとも思える恐怖が、私の身に起きたのだ。


「ドンッ!!」


橋の上を恐々と歩いている私の背中を、誰かが驚かすかのように押してきたのだ。
 動画撮影中だから声は出せない。まぁ別に出しても構わないのだが、それでも出さない様に心がけた…のだが、つい

「おっ!」

といった感じの微妙な声を情けなくも上げてしまった。なおかつ、その強い押し加減には、不覚にも前によろけてしまった程であった。喉の痛みの為につい咳払いをしてしまってから、約30秒後の出来事だ。


(何が起きたんだ?)

(誰がこんな悪戯するんだ?)


慌ててしまったのか、そんな事をまず考えてしまったのだが、橋には誰もいないのは間違いない。いないのは分かっていたのだが、それでも後ろが気になってしまい、つい後ろを確認してしまう。

しかし、当然ながら誰もいない…。

その当時の自分の顔は見ていないので、どんな表情であったのはは分からない。しかし間違いなく、血の気の引いた真っ青な情けない表情を浮かべていたのだろう。
 どちらにしても、あの押される感覚は、神奈川の某大橋で味わったものと同じであった。橋の上では、この様な出来事が多いのだろうか…。
 何にしても、押されてよろめいた先が橋の上であってよかった。欄干の向こう側であったらと思うと、今になっても寒さを覚える。

 結局その後も恐怖心に支配されながらも、動画撮影を続けたのであった。また興奮した気持ちを抑え、若干の写真も撮影して、琴平橋を後にしたのであった。

 その後に場所を移動し、様々な箇所を取材したのだが、その際の取材条件は最悪であった。というのも豪雨に見舞われてしまったのだ。身体はびしょ濡れになるし、なにより真面な撮影が出来ず、現地の空気を純粋に感じる事が出来ない。たまにはそんな構図も良いのかもしれないが、やはりあの体験後は散々な目にあったと言わざるを得ない…。

 しかし、それにしても振り返った時に誰もいなくて、かえって良かったと今になって思う。もし、その時に誰もいないはずなのに誰かがいたのなら、それはこの世の者にはなし得ない所業であり、すなわち

“あの世の者”

の仕業でしかない事になる。そんな者が振り返った先にいたならば、おそらく相当のパニックに陥り、間違いなく取材どころの話ではなくなってしまっただろう。

 いや、ただ単に日中の明るさに、霊の姿が掻き消されただけであって、実は私の真後ろに背中を押した“もの”がいたのかもしれない。
 こればかりは真意を確かめる手法は存在しない。それこそ解釈の仕方でどうにでもなるという次元となってしまう。だから私の解釈だけで、それを判断してしまえば…

ただ単に見えなかっただけなのだろう…。

 そんな体験をしてしまったものだから、冒頭で述べた投稿内容は、それを実際に行ってしまった私的には、納得せざるを得ない情報となってしまっている。救いは夜ではなく昼であったことだろうか。

 いや待て!
 考えても見れば、このテキストを書き終えた5日後に、また神流湖へ行く予定があるのだ。しかも今回は夜間である…。
既に神社巡りを終えてしまった私が夜間に訪れてしまったら、果たしてどんな結果となってしまうのだろう?

 昼間であの恐怖であったのだから、夜に訪れたのならば……

 もし何かが起きたのならば、また体験談として載せるとしよう。

 何事もなく無事であったのならば……。





 なお、その際の動画はキチンと保存もしているし、よく有り勝ちな「怖いので削除しました」といったオチでもない。しかし、その部分は神流湖の紹介動画においては削除させて頂く事になるだろう。
 しかしそれでは

「実は“作り”じゃないの?」

なんて思われてしまうだろう。なので、その部分だけカットし、その部分だけを事前にYouTubeに既に公開しておいた。この体験談と同じタイトルで、公開日はこの体験をした翌日である。

「神社巡りの末の赤い橋」

 映像的には決して怖いものではないし“いかにも”的な霊がキチンと出てくるといった様な、気の利いた恐怖動画に仕上がっている訳でもない。そんな意味では、実に納得のいかない動画だと不満もあるかもしれないが、私の動画は先にも書いた通り「資料」の1つだと解釈して頂けたら幸いだ。
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